軽微な接触事故や追突事故を経験した後、修理を終えて一見元通りになったように見えても、後ろのドアが開かない、あるいは閉まりにくくなるといった後遺症に悩まされることがあります。これは車のフレームやボディの微細な歪みが原因です。現代の車はモノコック構造という、ボディ全体で強度を確保する仕組みを採用しています。そのため、たとえバンパーをぶつけただけの小さな衝撃であっても、そのエネルギーはボディ全体に伝わり、ドアを支えるヒンジ部分や、ドアを受け止めるピラー(柱)の角度を僅かに狂わせてしまうことがあります。ドアは数ミリ単位の精密なクリアランスで設計されているため、この僅かなズレがロック機構の噛み合わせを悪くし、スムーズな開閉を妨げる原因となります。 また、ドア内部のインパクトビームと呼ばれる補強材が衝撃を吸収した際、その反動でドア自体の形状が微妙に歪むこともあります。外板のヘコミは板金塗装で綺麗に直せますが、内側の骨格部分の歪みまでは完璧に修復しきれない場合があるのです。この歪みは、ドアを閉めた時の気密性にも影響し、走行中に風切り音が聞こえるようになったり、雨漏りの原因になったりすることもあります。修理後に後ろのドアが開かない、あるいは開閉に強い力が必要になった場合は、フレーム修正機を用いた精密な測定と再調整が必要になるかもしれません。 物理的な歪み以外にも、事故の衝撃で配線がダメージを受けている可能性も考慮すべきです。特にバックドアやスライドドアの付近を通っているハーネス(電線の束)が、ボディの変形によって押し潰されたり、被覆が剥がれたりすると、電気的なショートや信号の遮断が起こります。これがロック解除の信号を阻害し、ドアが開かないという症状を引き起こします。事故直後は問題がなくても、その後の走行の振動で徐々に断線が進行し、数ヶ月後に突然症状が出ることもあるため注意が必要です。 中古車を購入する際も、こうした後ろのドアの開閉具合は重要なチェックポイントになります。特定のドアだけ閉まる音が違ったり、開ける時に引っかかりを感じたりする場合は、過去にその付近に衝撃を受けた事故歴が隠されているサインかもしれません。車のドアは単なる出入り口ではなく、万が一の際の安全を確保するための精密な機械装置です。事故の後は見た目だけでなく、全てのドアが指一本でスムーズに動くかどうかを確認することが、その後の安心なカーライフに繋がります。もし違和感を感じたならば、それは単なる気のせいではなく、ボディが発している救信号かもしれません。プロの目による再点検を惜しまないことが、深刻なトラブルを未然に防ぐ最善の策となります。
事故後に車の後方ドアが閉まりにくくなる構造的理由