私が、我が家の玄関のシリンダー交換を本気で決意したのは、ある夜、テレビのニュース番組で、空き巣の手口に関する特集を見たことがきっかけでした。そこでは、ピッキングという手口によって、古いタイプの鍵がいかに簡単に、そして静かに開けられてしまうかが、実演と共に生々しく解説されていました。そして、画面に映し出された、いとも簡単に開けられてしまう錠前の形状は、我が家の玄関についているものと、全く同じだったのです。その瞬間、背筋が凍るような思いがしました。これまで、何の疑いもなく、この鍵一本に家族の安全を託してきた。しかし、それはもはや、泥棒に対して「どうぞお入りください」と言っているような、無防備な状態だったのかもしれない。その夜、私はなかなか寝付けませんでした。物音がするたびに、誰かが侵入してきたのではないかと、心臓が跳ね上がりました。翌朝、私は妻に相談し、すぐにでもシリンダーを交換することを提案しました。妻も同じ番組を見ていたらしく、二つ返事で賛成してくれました。インターネットで近所の鍵屋を数軒探し、電話で見積もりを取りました。各社とも、防犯性の高いディンプルキーへの交換を勧めてくれ、費用は三万円から四万円程度とのことでした。決して安い金額ではありませんでしたが、昨夜の恐怖を思えば、それで家族の安心が買えるのなら、必要な投資だと感じました。翌日、来てくれた鍵屋の職人さんは、手慣れた様子で古いシリンダーを取り外し、新しい、ずっしりと重いディンプルシリンダーを取り付けてくれました。作業は三十分ほどで終わり、最後に、キラキラと輝く新しい鍵を三本、手渡してくれました。その鍵を手に取り、初めて施錠した時の、あの「ガチャン」という重厚な感触と音。それは、単なる施錠音ではありませんでした。それは、我が家に、新しい「安心」という名の、強固な盾が備わったことを告げる、頼もしい産声のように、私の耳に響いたのです。