我が家の息子が二歳になり、よちよち歩きから、家中を探検する小さな冒険家へと進化した頃、私は妻と相談し、玄関のドアに後付けのチャイルドロックを取り付けました。ドアの上部に、両面テープで貼り付けるだけの簡易的なもので、正直なところ、最初は「こんなもので本当に意味があるのだろうか」「少し過保護すぎるかな」という気持ちが、私の心のどこかにありました。しかし、その「念のため」の備えが、息子の命を救うことになるのを、その時の私は知る由もありませんでした。それは、ある晴れた日の午後のことでした。私はリビングで少しだけパソコン作業をしており、息子はすぐそばでおもちゃで遊んでいました。宅配便が届き、私が玄関で荷物を受け取り、サインをしている、ほんの数十秒の間。私が玄関ドアに背を向けていた、本当に一瞬の隙でした。背後で、カチャリ、という小さな、しかし聞き慣れない音がしたのです。ハッとして振り返ると、そこには信じられない光景が広がっていました。息子が、背伸びをして玄関のドアノブに手をかけ、ドアを押し開けようとしていたのです。そして、ドアは、私の付けたチャイルドロックのアームに引っかかり、わずか十センチほど開いた状態で、固く止まっていました。その隙間の向こうには、車が勢いよく行き交う、家の前の道路が見えました。もし、あのチャイルドロックがなかったら。息子は、何の疑いもなく、その道路へと駆け出していたでしょう。そう思うと、全身の血の気が引き、足が震えて、その場にへたり込みそうになりました。私は、震える手で息子を強く抱きしめ、その無事を何度も確認しました。そして、ドアの上部で、小さな体で全体重をかけてドアを押す息子を、けなげにも食い止めてくれていた、あのプラスチックのロックを見上げ、心から「ありがとう」と呟きました。事故は、本当に、大人が想像する「一瞬」の隙に起こります。そして、後悔は、事故が起きてからでは、決して取り戻すことができません。あの日以来、私にとってチャイルドロックは、単なる安全グッズではなく、かけがえのない家族の未来を守ってくれた、お守りのような存在なのです。