我が家は、リビングの隣が夫婦の寝室という間取りで、その間は一枚のスライドドア(引き戸)で仕切られています。子供が小さいうちは、そのオープンな作りが便利でしたが、子供が小学校に上がり、自分の部屋を持つようになると、一つ、また一つと、小さな問題が起きるようになりました。それは、子供が何の気なしに、夜中でもリビングから寝室のドアを開けて入ってきてしまうことでした。もちろん、悪気がないことは分かっています。しかし、ようやく寝付いたところを起こされたり、夫婦のプライベートな時間が遮られたりすることに、妻も私も、少しずつストレスを感じるようになっていました。そこで、私たちは、寝室側の引き戸に、内側からかけられる簡易的な鍵を後付けすることにしたのです。賃貸ではないので、DIYでねじ込み式の簡単な面付錠を取り付けることにしました。ホームセンターで千円ほどの製品を購入し、私がドライバー片手に取り付けました。作業は三十分ほどで完了しました。その夜、私たちは初めて、新しい鍵をかけました。カチャリ、という小さな金属音が、リビングと寝室の間に、穏やかで、しかし確実な一本の線を引いてくれたように感じました。その夜、私たちは久しぶりに、誰にも邪魔されることなく、朝までぐっすりと眠ることができました。それは、単に物理的にドアが開かなくなった、という事実以上の、大きな精神的な安らぎでした。もちろん、子供には、なぜ鍵を付けたのかを、きちんと説明しました。「パパとママが、夜ぐっすり眠るための、おまじないだよ」と。子供も、少し大人になったような気分で、そのルールを理解してくれました。あの小さな鍵一つが、私たちの睡眠の質を向上させ、日中の育児への活力を与え、そして、家族それぞれが互いのプライベートを尊重するという、新しい関係を築くきっかけとなってくれたのです。家族の形は、成長と共に変わっていきます。その変化に合わせて、住まいの形も少しずつ変えていく。後付けの鍵は、そんな柔軟な暮らし方を実現してくれる、賢明なツールだと、私は実感しています。