家の鍵とは異なり、自動車の鍵穴が回らなくなった場合、その原因として真っ先に疑うべき、特有のメカニズムが存在します。それが「ハンドルロック(ステアリングロック)」です。これは、盗難防止のために備わっている機能で、エンジンが停止した状態でハンドルを動かすと、ハンドルと同時にイグニッションキーもロックされ、回らなくするというものです。もし、あなたが車に乗り込み、キーを差し込んでも全く回らない、という状況に陥ったら、パニックになる前に、まずこのハンドルロックがかかっていないかを確認してください。多くの場合、このトラブルは非常に簡単な操作で解除することができます。ハンドルロックの解除方法は、至ってシンプルです。まず、キーをイグニッションキーシリンダーに差し込んだ状態で、片手でハンドルを握ります。そして、そのハンドルを「左右どちらかに、少し力を加えながら動かし」ます。この時、ハンドルはロックされているため、大きくは動きませんが、数センチ程度の「遊び」があるはずです。その遊びの範囲で、ハンドルを左右に小刻みに動かしながら、同時にもう片方の手で、キーを優しく回そうと試みてください。すると、ハンドルとキーシリンダー内部のロック機構が、ある特定の点で噛み合い、「カチッ」という小さな音や感触と共に、ロックが解除されます。そうなれば、キーは嘘のようにスムーズに回るようになるはずです。この操作で最も重要なのは、「無理な力を加えない」ことです。焦って、力任せにキーを捻ろうとすると、キーが曲がってしまったり、最悪の場合は鍵穴の中で折れてしまったりする危険性があります。あくまで、ハンドルを左右に優しく揺さぶりながら、キーを回す力もソフトに行うのがコツです。車の鍵が回らないトラブルの、実に九割以上が、このハンドルロックが原因であると言われています。業者を呼ぶ前に、まずはこの簡単な解除操作を試してみる。それだけで、無用な時間と費用を節約できる可能性が非常に高いのです。