施錠と解錠の歴史は、同時に、その錠を破ろうとする「不正な解錠」との、果てしない戦いの歴史でもありました。大切な財産を守ろうとする者と、それを奪おうとする者。両者の間で繰り広げられてきた、まさに矛と盾のような知恵比べが、現代の高度な防犯技術を生み出してきたのです。空き巣などの侵入犯罪者が用いる不正解錠の手口として、最も広く知られているのが「ピッキング」です。これは、鍵穴に針金のような特殊な工具を二本差し込み、一本でシリンダーに回転方向の力をかけながら、もう一本で内部のピンを一本一本、正しい高さまで持ち上げていくという、非常に高度な技術です。かつて、日本の多くの住宅で使われていた「ディスクシリンダー」というタイプの錠前は、このピッキングに対して非常に脆弱で、熟練者にかかれば、わずか数十秒で解錠されてしまうこともありました。この脅威に対抗するために、錠前メーカーが開発したのが、現在主流となっている「ディンプルキー」です。鍵の表面に、大きさや深さの異なる多数の窪みがあり、内部のピンも上下左右と複雑に配置されているため、ピッキングによる解錠は、極めて困難になりました。もう一つの巧妙な手口が「サムターン回し」です。これは、玄関ドアの外側から、ドアスコープ(覗き窓)や郵便受け、あるいはドリルで開けた小さな穴などを通して、特殊な工具を差し込み、内側にある鍵のつまみ(サムターン)を直接回してしまうという手口です。どんなにピッキングに強い鍵を付けていても、この手口の前では無力化されてしまいます。これに対抗するために生まれたのが、「防犯サムターン」です。ボタンを押しながらでないと回せないタイプや、外出時にはサムターン自体が空回りするようになるタイプ、さらにはつまみ部分を取り外せるタイプなど、様々な工夫で、外部からの不正な操作を防ぎます。技術は、常に進化します。それは、防犯技術だけでなく、犯罪の手口もまた同じです。一つの対策が生まれれば、その裏をかく新たな手口が考案される。この終わることのない戦いの中で、私たちの安全は、より強固な施錠と、より困難な解錠を追求する、技術者たちの地道な努力によって、かろうじて守られているのです。
不正な解錠と戦う防犯技術の進化