それは、何の前触れもなく、ある日突然やってきました。いつも通り、仕事から帰宅し、玄関のドアの前で鍵を差し込んだのです。しかし、鍵は途中までしか入らず、固い感触に阻まれました。何度か抜き差しを繰り返しているうちに、何とか奥まで入ったものの、今度は、鍵が全く回りません。右にも、左にも、びくともしないのです。最初は、単に鍵の向きが違っていたり、差し込み方が甘かったりするだけだろうと、楽観的に考えていました。しかし、十分、二十分と格闘を続けても、状況は一向に変わりません。次第に、私の心には焦りと不安が広がっていきました。家は目の前にあるのに、中に入ることができない。その単純な事実が、これほどまでに心細いものだとは、思いもしませんでした。結局、私はスマートフォンで鍵屋を探し、出張サービスを依頼することにしました。電話口で事情を話すと、「おそらく、シリンダー内部の経年劣化でしょうね」と、落ち着いた声が返ってきました。一時間ほどして駆けつけてくれた鍵屋の職人さんは、私の鍵と鍵穴を一目見るなり、同じ診断を下しました。そして、特殊な潤滑剤や工具を使い、慎重な手つきで作業を始めました。それでも、なかなか鍵は回りません。最終的に、職人さんは「内部の部品が破損している可能性が高いです。このまま無理に回すと、鍵が折れてしまう危険性があります。シリンダーごと交換するのが、最も安全で確実です」と、私に告げました。私はその提案を受け入れ、その場でシリンダーを新しいものに交換してもらうことにしました。全ての作業が終わり、新しい鍵でスムーズに解錠できた時、私は心の底から安堵しました。結局、その日の出費は三万円以上。痛い授業料でしたが、私はこの経験から、大切なことを学びました。鍵という精密機械も、いつかは寿命を迎えるということ。そして、「回りにくい」といった小さな異変は、深刻なトラブルの前兆であり、決して放置してはならない、ということを。あの日以来、私は、日々の施錠と解錠の、あの滑らかな感触に、ささやかな感謝の念を抱くようになったのです。
鍵が回らず施錠も解錠もできない日